[ vol.2 ] シャラン鴨

フランス高級鴨の代名詞

エモンの運命を一変させたヒット商品といえばカナール・シャランデ「シャラン鴨」です。

1994年、フランスの食材を細々と輸入していた私たちに、「鴨の血を使って料理をしたい」(フランスでは豚、鴨、鶏などの血を料理に使う)という話が、舞い込んだのが事の始まり。

まず、頭に浮かんだのはルーアン鴨。
この鴨は血を抜かずにト殺するため身が赤いことで知られています。早速、フランスのエージェントにサンプルを依頼すると、送られてきたのは3.8kgもあるビッグ・サイズ。

本来、小さいはずのルーアン鴨が何故こんなにも大きいのかと疑問に思い調べていくと、その鴨はルーアン鴨ではなく、現在、ルーアン鴨は交配種として使われるか、コレクターが趣味で飼っているだけということが分かりました。

それではと、他の鴨を捜し求める内に行き着いたのが、「カナール・シャランデ」だったのです。

この鴨は、ルーアン鴨同様に血を蓄えたまま窒息させて絞める(エトフェ)ため、身が赤いのが特徴。また、鴨の料理で有名なレストラン「トゥール・ダルジャン」でも使われていることが判明。同店ではダック・プレスでガラを絞って血をとり、ソースのつなぎに使っています。まさにお客様の要望にピッタリの鴨だったのです。

早速、サンプルを取り寄せて試食会を開催。
鉄分を多く含み野生的で芳醇な味わい。脂身の美味しさ。牛肉かと見間違うほど赤く繊細な肉質。 あまりの美味しさに、これは日本にも紹介したいとスタッフが一大奮起。まず、カナール・シャランデの生産者を訪ね、フランスはヴァンデ地方、シャランに向かったのは言うまでもありません。

そこには想像以上にのどかな風景があり、えんえんと広がる湿地帯の中で鴨が群れをなしながら自由に走り回り、ゆるやかに流れる小川で好きなだけ水遊びをしながらスクスクと育っている姿がありました。

鴨の生産者ビュルゴー家4代目当主曰く、「鴨の好む湿地帯環境で、自由に育ててあげることが、シャラン鴨の美味しさの所以」。

シャラン鴨への愛情がたっぷりと感じられました。そして、「初代の頃は、シャランのほとんどの農家がシャラン鴨を飼育していたが、飼育コストがかさむことから今日残っているのはビュルゴー家のみ。」との同家の歴史の重みを感じるお話も伺いました。

社長の石塚は、 シャランの自然、昔ながらの伝統的な飼育方法、当時から変わらない自家配合の飼料、カナール・シャランデの伝統を守り続けるビュルゴー家、全てに魅了され、ますますシャラン鴨を日本にと思いを強くして帰国しましたが、難題が山積み。

というのも、他にはない美味しさを持つ反面、大きさは不揃い、鴨の処理が雑なため、毛根が残ったまま。

美味しければ見た目は特に気にしないフランスとは違い、食材の美しさと均一の規格を求める日本では流通させるのは至難の業だったのです。そこで、何度も鴨を取り寄せてはオフィスでペンの代わりに包丁を持ち大研究。レストランで使いやすいようにカットされたスタイルを目指し試行錯誤の毎日でした。

と同時に、フランスのビュルゴー家には、日本で流通するための必須条件を繰り返し説明。オフィスに鴨の匂いが染み付き始めたころ、ようやくや綺麗に処理され使いやすくカットした、骨の旨味を保つ骨付き胸肉に辿り着きました。こうして、ようやく日本に紹介できるようになったのです。

すぐに多くの料理人かは高い評価を頂くことができました。が、当時の日本のレストランや婚礼のメニューでご馳走といえば牛肉。当初は、なかなか注文数が増えずに苦慮したのも事実です。

営業努力や、シェフたちのおかげで、シャラン鴨の魅力がジワリジワリと浸透。また、グルメ・ブームにより様々な食材に多くの人が関心を持つようになったこともあり、数年後には牛肉以上にプレスティージュの高い食材となりました。

そしてフレンチのシェフのみならず、イタリアンや和食店でも料理人がこぞってカナール・シャランデを使い始めるようにもなりました。

しかし、ビュルゴー氏の情熱を受け継ぎ良かったと安堵しているころに、シャラン地方で飼育された他の品種の鴨が出回り始め、私たちを悩ませることとなったのです。

シャラン鴨は、厳格な規定で育てられた鴨ですが、それが他の鴨と混同されているのは本当に残念なこと。そこで、私たちがフランス政府に働きかけた結果、1995年1月以来、シャラン地方で飼育され、「シャラン鴨」という確立された品種のみを「シャラン」と名乗ることが出来るようになり、シャランで飼育された他の品種の鴨とは区別されるようになったのです。

こうして思い返せば、シャラン鴨を通してフランスと日本の文化の違いを痛感したり、旧き良きものの大切さを改めて感じたりと様々なドラマがありましたが、シャランの自然、伝統を大事にしながら、「シャラン鴨」のおいしさを伝えることが出来たのは、私たちにとって何よりの喜びです。

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